週刊NY生活

            2005.12.03.

 

東洋の心を語る

汪蕪生氏  宮本亜門氏

山水写真の美にアジア人の思想

中国の写真家、汪蕪生(ワン・ウーシェン)氏と演出家の宮本亜門氏の対談「東洋の心」山水の美――が11月28日、ニューヨークの日本クラブで開催された。同クラブ創設100周年記念の一環で行われたもので約130人が詰め掛けた。

汪氏は、中国の名山、黄山を30年に渡って撮り続ける写真芸術家。今月20日から故東山魁夷氏の作品と合同で、国連発足60周年を記念した展覧会「スピリット・オブ・ザ・イースト」展(来年3月10日まで)を国連で開催する。対談は、同展に先だって行われた。

宮本氏は、これまで公には語られることのなかった汪氏の家族のことや作品への取り組み方などについて聞いた。

政府高官の大学教授を父に、官僚の家庭で育った女性解放運動家を母に生まれた汪氏は、演劇青年から文化大革命の時に安徽師範大学物理学科に進み、卒業後、新聞社の報道カメラマンとして写真の世界に入った。

1974年の黄山での撮影は、汪氏の魂を震撼させ、人生観までを変えたという。「大学では方程式の世界だった宇宙が、山頂で手を伸ばせば届くようなところにあった――」とも。

「ちっぽけな肉体と人生の時間を使って有限なものを無限なものにしようとした。写真は記録。撮影は仕事の3分の1で3分の2は暗室作業。写真という具象のメディアを使って自分の心象風景を印画紙に出す、これを山水写真と名付けた。東洋の心は、陰と陽のバランス感覚を求める老荘思想(タオイズム)の中に「黒白魂」を節度を持って存在させる。曖昧と混沌の思想が今こそ求められている」などと写真を通じた哲学を語った。

宮本氏も「現代日本は、資本主義社会をあたかも貧富、勝ち負け、白黒をはっきりさせるような仕組みだと取り間違えているようなきらいがある。理想の中にいかに現実を持って生きていけるかが大切だ」と熱く語り、対談は、自然保護や東山魁夷の人間の心の静寂さ、アジアの中の隣人としての日本など大いに弾んだ。