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            2005.12.

 

日本クラブ創立一〇〇周年記念イベント

山水写真家・汪蕪生

「魂が延々と残れるような作品を作りたい」

日本在住中国人写真家、汪蕪生氏と演出家の宮本亜門氏の対談が、11月28日、ニューヨークの日本クラブで開催された。同イベントは、12月の国連展「『東洋の心』山水の美」に先立って行われた日本クラブ創立100周年記念の一環。宮本氏が司会役を務め、汪氏はライフワークになった黄山との出会いや写真を通じた人生観などを大いに語った。

心洗われるような美しい幻想的な世界。中国の景勝地・黄山を30年に渡って撮影してきた汪氏の作品には、観る者の心を惹き付ける神々しさが漂う。

汪氏は安徽師範大学物理学科卒業後、新聞社の報道カメラマンになった。取材中、黄山に出会い、人生観を変えるほどの衝撃を受ける。

「この時、私は初めて、宇宙というものを体で感じたのです。また、何億年も前からある山肌、千年以上前からある松に、宇宙と同時に時間と歴史の流れを感じました。そして、自分の存在の小ささを体感し、『人生とは何なのか』と真剣に考えるきっかけになりました。ちっぽけな肉体と人生の時間を使って、有限なものを無限なものにしようと思いました。魂が延々と残れるような作品を作りたい」。独特な日本語の言い回しで語る汪氏。自分自身と黄山の自然を一体化させ、時間を空間を超越する作品を取り続けようとする想いが伝わってきた。

汪氏は撮影のため、何ヶ月もの間、山に籠もることもある。

「一瞬の間だけ雲間から差し込む光や流れる雲。その景色が出て来るまで、1週間、1ヶ月と待つこともあります。しかし撮影の作業は全体の3分の1.あとの3分の2は暗室での作業です」
汪氏の作品は、山水画のようなモノクロ写真。白くわき上がる雲海に、黒くそそり立つ岩山。松の黒いシルエットが景色を引き立たせる。

「写真は記録のメディア。撮影時は客観的に撮りますが、景色から受けた自分の感覚を1枚の印画紙に出すために、繰り返してプリントします。ただの風景写真ではなく、自分の心象風景を映し出す。これを『山水写真』と名付けました」

汪氏の作品は、12月20日よりニューヨークの国連本部で展示される。(文/鈴木亜佐子)