「気象新聞」第58号」

            2000.07.20.

 

雲霧的写真家

 

汪蕪生〔ワンウーシ工ン)さんは中国蕪湖市生まれ。55歳。大学物理学科卒業後、新聞社のカメラマンとなり、1974年から安徽省の名山「黄山」を写し始めた。日本ヤアメリカに留学し、現在は日本在住。世界各地で「黄山」の展覧会を催し、好評を博した。雲や霧をはじめとする気象現象を取り入れた特色あるモノクローム写真を得意としている。今年4月 I8日から7月6日まで東京都写真美術館で個展を開いた。

立平  中国で名山といえば、泰山とか廬山と思っていましたか、「天下の名景は黄山に集まる」ともいわれているそうですね。

  実は唐代の李白も黄山に関する詩を書いています。でも、それは有名な詩ではないので、日本では黄山はあまり知られていません(笑)。それと、黄山は有名になったのが、比較的新しい。1300年くらい前ですから。

立平  1300年前で新しいのですか(笑)?

  まあ、中国ではそうです(笑),あと、交通不便な所なので知られなかった。でも、今はかなり便利になりました,上海から飛行機でー時間とぶと屯渓という街がありまして、ここは今、黄山市と名前を変えました。そこから車で1時間半くらいです。黄山のふもとからはケーブルカーですぐ上に行っちゃう。

立平  写真のような景色を見ようと思うと、相当運がよくないと駄目なんでしょう?

  それは運に任せるよりありませんね。1日でもつばと見られる人もいるし、1か月待っても見られない人もいます(笑)。

  本当にいつも気象が相手ですね。自然がどういう表情を見せてくれるかは気象次第,完全に気象そのものですね。

立平  写真を撮る上では、変化の激しい気象の方がいいわけですね?

  そう、神様がいろいろ見せてくれて、選択させてくれるわけですよ。全然変わらないと選択の余地がないでしょう,私は自分の美意識、自分のセンスで、その瞬間を切り取るのです,ですから変化が激しいのがいいですね。

立平  黄山は広い意味で長江下流域にあるのでしょうが、このあたりは気候的には日本に似ていますね?

  そうですね,安徽省とか浙江省とか…

立平  みな米を作って食べでいる(笑)。

  レンズは全部ズームレンズです,日本に来た最初のころ、日本のプロはズームレンズは使わないよと言われました,たしかにズームでは画質は落ちますが、私の被写体は非常に変化の激しい被写体ですから、レンズを交換する余裕がないんですよ,瞬間的に構図を決めて、シャッ夕一ボタンを押す。せっかくいい現象が現れても、レンズ交換などしていると、もうそれは無い(笑)。

立平  変化の瞬間を捉えたいわけで、まるでスポーソ写真みたいですね?

  そうですね。

  特に私が好きなのは、嵐の前ですね。子供の頃からそうでした。興奮しちゃう,なゼだかわからない。空気の中に普段見えない色、雰囲気、光などが出てくるんですよ。すごくドラマチックです。

立平  日本の梅雨のようなものもあるんですよね。梅雨前線に伴う雲の帯が日本から長江下流域ヘ延々と伸びているのが気象衛星画像でよく見られますが。

  そう、梅雨があります。

  黄山というのは雲海とか霧がよく出るので有名ですね、岩の面白い形でも有名ですね。日の出、夕日の美しさでも有名です。

立平  標高は?

  一番高い峰は1880mくらいです。黄山というのは富士山のようなーつの山ではなくて、20 k m四方ぐらいの範囲に沢山の峰々があります,名前がついているのが73あります。

立平  富士山の雲海も有名ですが、平板的ですね。黄山のように激しく波打ったり、渦を巻いたりはしていません。黄山は多数の峰々を気流が乗越えたり、迂回したりするためでしょうね。

立平  地図でみると、長江の本流がわりに近くを流れていますね。海洋性の湿った空気が、長江本流沿いに入やすいのではないかということは考えられますね。黄山の峰々の間の谷底には川が流れでいるのですか?

  川はないんです。洪水の時は別ですが。沢山の山々は、何億年前にマクロの地殻変動で、花崗岩などの溶岩が地表から出て、形成されたというわれています。

立平  花崗岩だとすると、浸蝕されやすいですね?

  とくに氷河期に氷河に削られた結果、このような面白い形になった。

立平  もっと南の桂林まるでタイブが違いますね。

  桂林はもっとやわらかい感じです。小さい丘の連続で、麓には大きな河が流れています。

立平  水墨画を意識して撮影しておられますか?

  真似しようとは思いません。まあ、遺伝子に東洋の美意識は刻まれているでしょうから、自然に出てくるかもしれませんが(笑)。私の写真と墨絵を比べると、全然違うものだ分る思います,塁絵は紙の上にこのような力強いコントラスト出てきません。

                                                                                                                           
                                                                                             (聞き手 立平良三)