「聖教新聞」 

            2000.05.21.


SUNDAY INTERVIEW

物質文明に偏った生活とても危険。
精神的な感動、魂の感動は新世紀を迎える人類におい
て、とても大切なこと。

 

〈中国の名山・黄山を撮り続けて四半世紀。ヨーロッパで最高の称賛を受けた汪さんの個展が、六月十八日まで、東京・恵比寿ガーデンプレイス内にある東京都写真美術館で開催中)
――黄山にこだわり続けたのはなぜですか。

「カメラマンとして最初に黄山と出合った時、その雄大な自然、刻一刻と様相を変化させる風景に魂が震えるほどの衝撃を受けました。人知を超えた力と悠久の時間の流れ、蕪限の宇宙の広がりを体感したのです。果てしない天と地とたなびく雲海の空間に直面しにちっぽけな人間。このコントラストに愕然(がくぜん)とし、芸術家として表現する使面がここにあることを直感したのです」

――人生観さえ変わったのですか。

「そうです。何億年と厳然と存在する岩山と、樹齢千年を優に超えるであろう松の群生を前にすると、長くとも百年ほどの歴史しか刻めない人間の一生、人生とは何なのか、との問いに直面せざるをえませんでした。永遠とも思える大自然の時の流れに比べて、人間の一生は一瞬にすぎません。ここに思い至った時、人生は良さではなく、何をするかが大切なんだ、との人生観が確立されました。黄山は、私が一生涯にわたって全力で芸術に尽くすことを決心させてくれた原点の地なのです」

――八一年から日本を活動の拠点にされたのは。

「当時、中国では、外国の写真芸術に接することと、フリーのカメラマンとして作品を世界に発表する機会がまだ乏しかったのです。そこで、日本の文化だけでなく西洋の文化も吸収しながら、自分の芸術スタイルを世界に問おうと思ったのです。実は、日本で初めて鑑賞した作品が、富士美術館館で開催されていた池田名営会長の写真展でした。名誉会長の作品は自然への愛にあふれています。さりげなく、身近にある美を発見して写されている。芸術は心です。名誉会長の平和を愛する、豊かで広い心に大変感動し、私の作品にも大きな影響をもたらしてくれました」

――すべてモノクロの作品ですね。

「よく『山水画のようだ』と言われますが、私自身、それを意識したことは全くありません。試行錯誤の結果、自分の感動を一番表現できるのがモノクロ写真だったのです。私は、二十世紀に生まれ、西洋の文化、芸術を吸収してきましたが、同時に、子どものころから意識することなく東洋の美意識、精神文化を身につけています。東洋と西洋、異なる精神と哲学が似合した結果が、私の作品を生んだと思います」

「物質文明に偏った生活はとても危険。精神的な感動、魂の感動は新世紀を迎える人類にとって、とても大切なこと。精神文化の確立を切に望みます。生きている意味を感じてほしいのです。そうしたメッセージを含め、命に刻まれる精神の幸福感を味わってもらえば幸いです」。

Memo

標高1800mを超える黄山の絶壁で、命綱なしでカメラを構える汪さんを写した写真がある。「黄山に立つと恐怖ではなく、大きな安らぎに包まれるのです。でも、高層ビルは怖くてしょうがないんですがね」と語る笑顔がとても印象的だった。自然と人間が織り成す至高の美の対話を多くの人に鑑賞してもらいたい。 
  
ワン・ウーシェン 中国安徽省生まれ。安徽師範大学物理学料卒業。 地元新聞社のカメラマンを務め、1981年、日本へ留学。東京芸術大学などで研修。東京女子大学比較文化研究所の客員研究員となる。 約1年の渡米を経て、フォト・アーティストとして国際的に活躍。日本、中国の各地で個展を開き大きな反響を呼ぶ。作品集に『Himmelsberge』(天上の山々)など多数。