「毎日新聞」夕刊

            2000.04.20.

 

黄山の幻想的な世界

「汪蕪生 山水写真展」
東京都写真美術館6月18日まで開催

                                                                    【鈴木 義典】

 

Himmelsberge(天上の山々)と題して「山水写真家」話題の中国写真芸術家、汪蕪生さんの写真展が東京都目黒区の東京都写真美術館で開かれている。山水画の原点といわれる中国・安徽省の「天下の名景・黄山」を四半世紀にわたり撮り続け、一昨年、オーストリア・ウィーンで個展を開き、大きな反響を呼んだ。

Himmelsberge(天上の山々)と題した帰国展は、息をのむほどの美しい幻想の世界を紹介している。

                            
「黄山」は、安徽省東南部にあり、総面積1200平方`、周囲250`あり標高1860bの蓮花峰を主峰に72峰を持つ大山塊で山水美の大自然の景観が広がっている。

同省蕪湖市出身の汪さんは、安徽師範大学を卒業後、地元の新聞社の報道カメラマンに。「取材中に、黄山の雄大さにひきつけられ、ライフワークとなった」といい、1974年から故郷の山、「黄山」を撮影し始めた。

81年に日本に留学、日大や東京芸大などで学び、東京を拠点に活動をしながらも、「黄山」を追い続けた。わき上がる雲海の中に浮かぶ光明峰、天都峰、駱駝峰、仙桃蜂などの山々、岩々がそそり立ち、10大名松の迎客松、麒麟松、鳳凰松などのシルエットが刻々と変わり、景色をひき立たせる。「人生観がかわるほどの衝撃を受けた黄山の感動を写真で表現したいと思った」と汪さん。撮影には、半年もの間、山にこもり、山水画のようなモノクロ写真で心象風景を描く。これまでに「黄山幻幽」 「黄山神韻」「黄山写意」などの写真集が出た。97年にオーストリアのクレムス美術館の企画展に5枚の写真作品を出品したのが縁でウィーン美術史博物館で98年5月から8月まで個展を開催した。同博物館のウィルフレード・サイペル館長は「作品が持つ山水の美は、時間と空間を超越する不朽のもの。撮影技術で伝統的な水墨画の美を再現、新鮮さと感銘を与えただけでなく理想的な芸術美を追求している」とたたえた。

汪さんを応援する人たちの間で、「ぜひ、日本でも」と話が持ち上がり、今回の写真展開催が決まった。

作品は、98年のウィーン展のために制作されたもので日本では初公開。2b四方額装39点、縦中2.6bの写真屏風4点など「黄山」関連作品70点のほか、ウィーンやパリ、日本の和歌山県の自然を写した作品なども展示されている。

汪さんは「ウィーン展では多くの人たちに喜んでいただきました。日本のみなさんにも鑑賞していただければ」と話している。