「財界」

            1998.08.25.

 

ひと

欧州名門美術館で東洋人初の個展を開催

 

オーストリアのウィーン美術史博物館で、五月二十日から八月九日まで、日本在住の中国人写真家・汪蕪生氏の個展が開かれた。

世界的にも屈指のこの美術館で開かれた個展は、ほとんどが美術史上著名な巨匠のものばかり。在世の芸術家の個展もただの一度だけ。ましてや、アジア人写真家の個展は同美術館はじまって以来のことである。

一昨年九月にウィーン郊外のクレムス美術館で開催された「荘重な山々」 の企画展にこわれて五点の作品を出展したのがきっかけだった。この作品を見、感動したウィーン美術史美術館のサイペル館長が汪氏の個展の開催を決めたのである。

汪氏は一九四五年十二月、中国安徽省蕪湖市の生まれ。

大学は皖南大学(現安徽省師範大学) に入り、物理学を学んだが、芸術の道を歩みたいという子供のころからの望みを捨てきれず報道専門カメラマンになった。「報道カメラマンとして仕事をしている途中に出合ったのが同省の黄山でした。ショックと言えるほどの感動を受けたのです。以来、この山が私のライフワークになりました」

古来、黄山は中国有数の霊山。多くの文人、画家が黄山神仙境を描いてきた。それに題材としてはきわめて不利だったが、黄山の魅力は、汪氏をとらえて放さなかった。

西洋と東洋を兼ね備えた日本で勉強し、作品を深めたいと、八一年国際交流基金の研究員として日本留学。日大芸術研究所、東京芸大などに籍を置きながら黄山の神仙境を写し取り、『黄山幻幽』『黄山神韻』といった写真集にまとめられた。

汪氏の個展はすでに西武美術館、三越などで開かれており、その水墨画と見まごう幻幽な作品に魅せられ支援者となっている財界人は多い。現在、「汪蕪生先生を囲む日中協力会」の設立が進んでいるが、そこには小山五郎・さくら銀行名誉会長のはか、豊田章一郎・トヨタ自動車会長、大賀典雄・ソニー会長など主だった財界トップ、政治家、文化人がずらり名を連ねている。

「小山さんとは、上海のガーデンホテルのオープニングのときに飾られた私の作品を高く評価していただいて以来、十年余、年齢、地位、人種を超えて友人としてお付き合いいただいていますが、心から尊敬できる方です。また、今回の個展に際して広いアトリエを提供してくださった第一ビルディングの山口隆社長など、日本の財界人の支援には感謝の言葉もありません」

いまや国際的に認められた汪氏だが、「いまだに日本永住が認められない」と寂しく笑った。

(池田)