《DIE PRESSE》(オーストリア新聞) 

            1998.05.28.

 

汪 蕪生:中国安徽省の黄山

「仙人達の住む国」――

 

日本在住の中国人フォト・アーチスト汪蕪生にとって、これは「天上の山々」の展覧会である。美術史博物館はハラッハ宮殿で展示している。

大型のパネルに納められ、見る者に追って来るその風景は、彼にとって馴染み深いものであるらしい。そこに見られる柔と剛、流動体と個体、雰囲気的なものと、そこに配され句讀点をなす樹木や岩石のストラクチャーとの混交は、中国や日本の芸術家達によって古い昔から使われてきた手法である。彼はその墨絵の中で、自らの視覚体験と自分自身の感じ方との一致をはかろうとしたのである。

日本に住んでいる、中国安徽省生まれの汪蕪生もまた、同じような試みを行っている。中国安徽省にははるか遠くまで続く黄山がある。そこで彼は四半世紀にわたって、この山岳風景に命が授けられ、息づき始めるプロセスを見つめてきたのである。それはこのアーチストを、道教的な人生観へと導いた。

霧、霞の立ち込める草原、白い雲、雨の緞帳、鋭く突き出た岩岩、断崖、そして険しく切り立つ天への道標などは、「仙人達の住む国」の風景を形作る特徴である。蕪生の解釈者である室伏哲郎が述べている、彼の中に住む「霞と翡翠を糧とする」存在は、「万有の精霊と同一である」。

広大な風景

汪蕪生は――かつて紙と絹と墨汁とを操った文人画家のように――このパラダイスの本質を抽出しようとしている。つまり彼は、「広大な風景」を小さな画面に捉えようとした古人のように、彼らの理想と同じものを追い求めている。

同時に蕪生は、拡大した写真で――またも東洋的伝統に従いつつ――屏風も作っている。また彼が白黒写真の撮影のため一つの光景を見つめ、「決定的瞬間」が訪ねるのを待つとき、彼はそれによって省略芸術である墨絵的要素も、自らの手段で達成しようとしているのである。

ウイーン美術史博物館のヴィルフリート・サイペル館長は、「荘重な山々」というクレムス展覧会でこのアーチストを発見し、彼の写真に感銘を受けた。彼は直ちにこのアーチストにウイーンで展覧会を開いて見ないかと提案した。汪蕪生にとって、ウイーンは「芸術の聖地」であり、憧れの的でもあった。

古人が山岳風景から勝ち取ったもの、そして濃縮されたエッセンスとして――自分の心と関連づけながら――再現すべきものと考えていたものを、このフォト・アーチストはパラレルに達成した。然し、自然に対する新しい視野、そして「天上の山々」における「神の多彩な墨絵」を達成することは彼には出来なかった。

                                クイスティアン・ゾトリファー

(ハラッハ宮殿、8月9日まで、毎日10時から16時まで)