《KURIER》(オーストリア新聞)

             1998.05.20.


汪蕪生が写し出す高山の霧

中国でも芸術家は山の呼び声に従う

『天上の山々』:汪蕪生の写真

 

「人間を動物から区別しているのは、何か精神的なものを得ようと努力するエネルギーだ」。中国の写真家で自然科学の造詣も深い汪 蕪生は、人間性をそう定義する。

彼にとっては、中国南部の山脈、黄山(Huangshan)が20年来のモデルである。彼は繰り返しこの「我がモチーフ」に登り、三脚とカメラを抱えて出発する,再びこの山から違った表情を引き出すために。時には何日も待ち続けて、ついに「これだ」と思うような天の雰囲気が現れるとき、彼はそれを写真にとらえるのである。山に向き合う時間を、汪 蕪生は「絶え間ない自己探求のプロセス」と表現する。「そのプロセスの中で、次第に独自の様式が形成されてきた」。

美術史博物館のハラッハ宮殿で、「天上の山々」というタイトルのもと、汪 蕪生のモノクロ写真43点が展示されている。この中国人芸術家の写真がオーストリアで始めて見られたのは、クレムス美術館で開催された「荘重な山々」展においてであった。

汪 蕪生の写真は、背後から光に照らされているように見える。これは、完璧に写真に向けられたスポットライトのためだけではない。彼の写真は、それ自身の中に強いドラマ性をはらんでいるのである。西洋ではこれをよくロマン派的とか感情的と評する。中国哲学ではこの現象を、エネルギーを意味する「気」という言葉で表現する。

汪 蕪生の目標は、「気」の場を生み出すことである――自分自身と山との間に、それから自分の作品と鑑賞者との間に。彼はこれに成功した。中国的な美学は、西洋の人々にはとらえ難いものであるとしても、汪 蕪生の写真たちは、心に触れてくる。

アンリエット・オルニー


ハラッハ宮殿にて、8月9日まで