「朝日新聞」

             1998年(平成10年)5月20日 水曜日

 

山水画の世界 欧州人を魅了

ウィーン美術史博物舘
                                     中国人写真家汪蕪生さん

 

山水画の原点といわれる中国安徽省の黄山を二十五年間にわたり撮り続けてきた、墨田区在住の中国人写真家、汪蕪生さん の個展が二十日から八月九日までオーストリアのウィーン美術史博物館で開かれる。欧州を代表する宮廷美術館の同館が、写真展を企画するのも初めてなら、東洋人の個展も初めてという。汪さんは「東洋の新しい表現を西洋に伝えたい」と語っている。


故郷の山撮って 東洋人初の個展


個展は「天上の山々」と題し、神々が住んでいそうな山々の霧と雲海の夢幻的な風景を紹介する。縦二・六b×横五bの屏風形式の作品など約七十点を、約四百三十平方bのホールに並べる。

汪さんは安徽省生まれ。地元の新聞社にカメラマンとして就職して以来、故郷の山・黄山を追うのを生涯の仕事と決めて通い続けている。

あるものしか写せない写真という手法で、どこまで心象風景を表現できるか。思うような写真を撮るために、黄山では半年近く粘るという。

十七年前に留学生として来日して以来、東京を拠点に活動してきた。

昨年九月、ウィーン郊外の「クレムス美術館」で開かれた「山」の企画展に、五枚の写真を出展したのが今回の個展のきっかけ。

美術史博物館の館長が偶然、作品に目をとめ、即座に個展の開催を申し込まれた。

汪さんは「こんな機会があるとは。とても興奮している。二十一世紀に向け、写真の歴史が長い西洋に、東洋からの文化的な衝撃を与えることができれば」と願っている。