「毎日新聞」大阪

               1994.06.16

八木亜夫の 交談楽語

水墨・山水画のような写真

白黒は究極の色

 

<中国人写真家・汪蕪生さんが写真展「黄山神韻」を6月20日から7月10日まで、大阪のニュートラム中ふ頭駅、ライカグループ本社OXYギャラリーで開く。汪さんの風景写真は、まるで水墨の山水画。昔の画家が繰り返し描いた山水の世界を、カメラの目でみごとにとらえる>

「山水画の風景は、想像上のものだと思っている人もいますが、実際に中国の黄山に存在するんです」

<安徽省蕪湖市に生まれたので「蕪生」。父・汪崙さんは、古く魯迅とともに活躍した文芸活動家だった。7人兄弟姉妹の五番目。現安徽師範大学で物理学を学んだが>

「初恋の相手がたまたま医科大学へ進んだので、こっちも物理学を選んだだけで、ほんとうは美術が好きでした。それで、独学で写真を学び、出版社のカメラマンになりました」。

<名勝・黄山は、生家から車で半日。1974年からここの撮影に着手> 

「一瞬の霧をとらえるために、3カ月も現地に住み込んだりしました。ちょっと油断すると、霧でまっ白になってしまんてす。カラーも撮りますが、だんだん色に対する興味がなくなってきました。白黒は究極の色じゃないでしょうか」

<来日して日本大学と東京芸大で写真を研究。写真集「黄山幻幽」 「黄山神韻」を刊行>

「生まれは中国でも、私の作品は、日本のみなさんの応援で育てられました。日本に14年住んでわかったのは、どんな民族、どんな文化、国家でも、完璧なものはない、ということです。中国のことで、私が恥ずかしいと思うことはたくさんあります」

<例えば>

「分裂と統一を繰り返してきた中国人は、国を頼ず、国家意識もない。あるのは家族だけで、個性が強すぎる。日本の一番いいところは、団結精神が強いこと。その代わり個性がない。日本では、愛国心ということを、いう必要がない。いわなくでも、みんな愛国心を持ってるから。中国では愛国精神の教育が必要なんです」

<これからは>

「お互いのいいところを見るようにしなければいけないと思います。21世紀は、東洋の時代になると、私は思います。産業主義というか、人間が物質生活のための機械になってしまった。昔のライフスタイルを見直すときです。それを芸術作品で訴えたい」

<中国、アメリカ、ヨーロッパで展覧会と出版の話がいっぱい。日本中を回って「扶桑神韻」の企画も。わざとらしい西洋押し付けのモデルではない、東洋的な「女性」も撮りたい。48歳。「日本語でいう、ご縁なくて」独身。東京在住>