「教育新聞」

                1994.01.01


山水写真を撮り続け

黄山(中国)に魅せられて 写真家 汪蕪生さん

 

雄大に切り立つ断崖にかかる雲。見ていると圧倒され、吸い込まれてしまいそうな半面、幻想的で思わず空を舞っているような気がする中国の黄山を舞台とした「山水写真」を撮り続けている。

昨年の日本での個展に引き続き、今年は故国で最も権威のある北京中国美術館で、中国人でも初めての写真展開く。

黄山に魅せられて二十年。東洋的な、自然と調和する文明の重要性を訴え続けている。

「物質文明は幸せにつながらない。精神文明がいかに大切かということを、自然の素晴らしい姿の写真を通して訴えていきたい」と力強く語る。

そのため、黄山はもちろんだが、今住む日本で心のふるさとを求めて、「扶桑の国」日本を旅し、フレームに収めていくのを当面の目標としている。「『男はつらいよ』のトラさんみたいに、むかしの生活風景が残っているところへ行って、素朴な人情に出会いたい。便利さだけ追っていたら、人間が怪物になっちゃう」。

写真は、シャッターを押す時点で一度、そして暗室でもう一度、旅を再現することができるとする。

「暗室でも旅を続けることができるのだから、最高の幸せ」としみじみ。

そして、人の心を打つ写真は、自分だけの興奮ではなく、伝えるための表現の手法が大事だという。

「以前、黄山で日本人のカメラマンと、同じ場所、同じ時間に、同じところを撮ったことがあったが、できたものは全く違うものだった。それぞれの美意識や心象風景によって、出てきたものは全然違ってくる」とのこと。

東京に住み始めて十年以上が過ぎ、中国へも″帰る″し、日本へも″帰る″。両方げとも″ふるさと″だからこそ、日本列島の旅を早くしたいと熱望している。

また、「カメラを構えている時が一番充実している」と、カメラなしの単純な旅は考えられないという。ちなみに、今、一番行ってみたいのは日本海側だそうである。、

昨年は、時間のすきまを見つけ、黄山の麓の村を訪れ、生まれ故郷とあまりに同じ雰囲気なので懐かしさがこみあげてきて、シャッターを押さずにいられない心の奥深くに郷愁が迫ってくるという得難い体験もした。

   もし、生まれ変わるとしたら、音楽もやりたいし、絵も描きたいし、映画製作もと、やりたいことがたくさん。「夢はありすぎるのに、人生は短すぎるから困ってしまう。人間の自然的な美しさも撮りたいし」と、悠久の時間の中に旅立ちたいとの思いひしひしである。