黄山神韻 汪蕪生 著
中国山水画の世界に写真で挑んだ作品集である。主峰七十二峰を数える中国安徽省の大山塊、黄山を舞台に、風と雲と巨岩と絶壁が織りなす自然の夢幻的一瞬を克明にとらえている。
切り立った岩と陵線(りょうせん)に点々と茂る松の老木、そしてそれを覆う移り気な雲のため、本書の作品群は従来の山岳写真とは明らかに一線を画す。切り取られた風景の向こう側には、道教にもとづく「神仙境」という精神世界があり、大自然をそのまま記録するというよりも、水墨画の世界を現出させるために大自然を使ったという趣が強い。
山肌を逆光で撮って黒い影にし、まさに水墨画の世界に近づけている作品と、岩肌をはっきりこ見せて写真ならではの効果を出しているもの、そしてカラー写真と、いくつかのアプローチが見られるが、作家が最も習熟しているのは、山水画と気脈を通じる白と黒の対比が鮮やかな手法だろう。千変万化する水蒸気の姿が美しい。
(講談社・七、五〇〇円)
|