「教育新聞」

                 1993.05.20.

 

永遠の美の表現を

 

墨絵のような濃淡の中に浮かび上がってくる夢幻の世界に、ある時は誘われ、またある時は凛としたおごそかさを感じる。そんな壮大な中国・黄山の写真を撮り続けている。

黄山は上海の近く「景勝霊山」とも「神仙境」ともいわれる中国を代表する名山で、ことに霧や霞の中にたたずむ岩や木々は、まさしく幻想の姿である。そんな黄山に魅せられて約二十年。
通いつめたり、時には三カ月もこもったりと、刻々と移り変わる様をファインダーに収めてきた。

「私の写真は心象風景なので、気持ちにぴったりとした情景になるまで辛抱強く待つ。風景写真は、シャッターを押せば誰にでも、ある程度のものは撮れるが、やはり魂を込めて撮ったものには、いきいきとした気があると思う」。

世界の人たちに写真をみてもらうには、情報の発信地として東京が一番と、来日してから十二年が経った。

「初めはひと言も、それこそありがとうとうという言葉も知らなかった」というが、今では全く不自由がない。また、様々な挫折や苦労もあったというが、ここ二年間は忙しくて休みが全くないほどで、今春には東京皮切りに巡回個展が始まり、日本はもちろん、今年中にフランス、ドイツ、イタリア、オランダ、イギリス、アメリカでの写真集の出版も決まっている。

「今年は、国際的にも写真を発表でき、一つの夢がかなった」といい、これからは日本列島も撮ってみたいと意欲的だ。

「西洋文明が行き詰まった現代社会においては、新しい形で東方文明を取り入れていくことが、一つの問題解決になるのでは」と、一枚一枚の写真にメッセージを込めている。

「黄山に登って松の音や鳥の声を聞いていると、何て世界や宇宙は大きいのだろうと思い、心が洗われるような気持ちになる。短い人生、くよくよしても仕方ないってね」と、大陸的である。

「写真には、撮る人間の美意識、価値観、思いが必ず反映されている。それだけに豊かな心、純粋な気持ちでないと」と、自らの生き方そのものを照射する。

今後は、北京や上海などで“里帰り個展”を行うほか、「日本の地方の小さな美術館や学校でも巡回展ができれば」と、次に生きる世代の子供たちにもたくさんみてほしいとしている。

「永遠に人を勇気づける美を表現したい」と、穏やかながら、強く光るまなざしで語った。

 

汪蕪生山水写真展事務局=〒106東京都港区六本木七−五−一一、カサグランデミワビル/пZ〇三(五四一一)九三七三。