Siesta(シエスタ)

1989春


黄山に魅せられた写真家の活写

 

黄山は、中国・安徽省にある。主たる峰が七十二、変化に富んだ奇岩の神秘的な景観は中国人でなくとも、心奪われる。

安徽省の蕪湖市に生まれ育った中国人写真家・汪蕪生もまた、この山に魅せられたひとりだ。

「はじめてみた黄山の絶景に我を忘れました。体の中に電流が走ったように全身が熱くなり心を強く打たれ、黄山に自分の全てを捧げようと決心したんです」という。そしてレンズを通しこの美を表現しようとした。

「何十日も黄山に入り、シャッターを押し続けましたが、同じ姿を一度も見たことがありません。変化に富んだ奇岩が林立し、その岩には希松が繁茂し、その峰々を縫うように霧や雲が湧き、流れてゆくのです」

数え切れないほどシャッターを押した。それは、黄山にカメラを向けることを天職とし、ひたすらその感動を写真におさめたいがためだ。

黄山に魅せられて十余年、その間は決して彼にとって平坦な“道”ではなかった。必要なフィルムを得るために日本に留学し、深夜までアルバイトをし、体を壊し寝込んだこともある。それでも彼は屈せず、再び黄山を撮り続けた。

この写真集におさめられたモノクロームの作品五十五点を見ていると、千変万化の仏境――黄山と、汪蕪生の黄山への思いが十分伝わってくる。