清水正夫 (松山バレー団団長・日中友好協会副会長)

1988.12.5.《日本と中国》



国土と人民の生命力が脈々と

汪蕪生写真集《黄山幻幽》

 

汪蕪生さんの写真集「黄山幻幽」をみると、まるで水墨画の世界である。

雲は一瞬のうちに変化し、同じ姿は二度とない。松樹はゆっくりと、年とともに変化するが、雲は迅速に消えてゆく。この写真集は汪さんの黄山との命をかけた対決でもある。
 
山と雲には誇張がない。あるがままの姿であり、自然のいとなみである。その自然を写真にするにはなまやさしいことではなかったと思う。自然の大きさ、するどさ、荒々しさ、枯れた松の枝が雲をつかむ。汪さんはこの中で「父母未生以前における本来の面目」をさとったかもしれない。汪さんは、すさまじい自然の流れの中で、「自然と人間」の深いかかわりをカメラでとらえたものである。  

もうそこにはてらいがない。生きている人間の小ささと人間の心の大きさの両面を感じたのではなかろうか。こんな感動をもってみる写真集はめったにない。この写真集には中国の国土とそれにはぐくまれた中国人民の生命力が脈々と流れている。